春の柔らかな日差しに恵まれた3月28日(土)午後1時より、南区役所別館4階の大会議室にて、今年度最後のイベント「おしゃべり茶話会」を開催いたしました。
まずは当会代表の後藤から開会の挨拶を、続いて、理学療法士の芳谷先生より「いつまでも自分らしく、元気で生活していくために」というテーマでご講演をいただきました。
第一部 ご講演

「自分らしさ」を諦めない。理学療法士に学ぶ、心と体を整える「希望」のリハビリテーション
1. はじめに:変わりゆく日常の中で、どう「自分」を保つか
病気や加齢によって、昨日まで当たり前にできていたことが、少しずつ難しくなっていく。そんなとき、私たちは言いようのない不安や、自分自身が削り取られていくような心細さを覚えることがあります。「これからどうなってしまうのだろう」という問いは、単なる体調への懸念ではなく、人生そのものへの問いかけでもあります。
3月28日、ミオパチー(筋疾患)の会オリーブで開催された茶話会。そこで講師の理学療法士・芳谷伸二先生が語られたのは、機能を取り戻すための厳しい訓練の話ではなく、私たちがどう「自分らしく」在り続けるかという、温かくも力強い希望のメッセージでした。変わりゆく体と折り合いをつけながら、いかにして「自分」という舵を握り続けるのか。その知恵を、皆さんと共有したいと思います。
2. 「リハビリテーション=希望」という新しい定義
リハビリテーションという言葉を聞くと、病院の訓練室で行う「歩く練習」や「筋力トレーニング」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、芳谷先生はその概念を鮮やかに書き換えました。「リハビリテーションとは『希望』」この定義において、リハビリテーションの本質は「かつての自分に戻ること」だけではありません。たとえ障害や制約があったとしても、方法を工夫し、新しい生活の形を手に入れること。それによって新しい可能性を見出し、実現していくプロセス全体を指しています。ここで最も大切にしたいのは、「自分で選び、自分で決める」という姿勢です。誰かに決められた訓練をこなすのではなく、自分の意思で一歩を踏み出すこと。その「決断」の積み重ねこそが、私たちの尊厳を支え、希望を形にしていきます。この考え方は、困難に直面して「もう元のようにはいかない」と立ち止まっている私たちの心に、新しい風を吹き込んでくれるはずです。
3. 感情をコントロールする技術:怒り、卑下、不安を書き換える
心と体は、私たちが想像する以上に深く結びついています。心の葛藤を整理することは、自分らしさを守り、認知症を予防する上でも極めて重要な役割を果たします。芳谷先生は、湧き上がるネガティブな感情を、しなやかな「気持ち」へと書き換える具体的な練習法を提案されました。
- 「怒り」を「愛の気持ち」へ
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- 何かに直面したとき、すぐに反応せず一呼吸置く習慣をつける。
- 相手の攻撃的な言葉に対して、心の中で「~ね」と繰り返してみる(感情に飲み込まれず、言葉を客観視する技術)。
- 情報の荒波に疲れないよう、必要以上にニュースを見すぎない。
- 「自分を卑下する気持ち」を「感謝の気持ち」へ
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- スポーツ選手や有名人など、他人と比較するのをやめる。
- 今の自分の中にある充実に目を向ける。
- どんな小さなことにも「ありがとう」と言葉にする。感謝を口にすることで、良い思い出が呼び起こされます。
- 「不安」を「信頼の気持ち」へ
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- 「今・ここ」を意識して生活し、先の心配をしすぎない。
- 今、自分にできる小さなことを一つずつ実行する。
- 祈る、あるいは静かに自分の内側を見つめる時間を持つ。こうした心の整え方は、脳機能の活性化を助けるだけでなく、私たちが自分自身の「核」を失わずに生きていくための、何よりのセルフケアとなります。
4. 「からだの占い」で今の自分を知る、スローな運動の提案
芳谷先生は、自分の体の声に耳を澄ませることを「からだの占い」と表現されました。私たちは年齢を重ねるにつれ、動きのパターンが固定化され、少なくなっていく傾向にあります。そこで、あえていつもと違う動きを試みることで、今の自分の状態を感じ取り、失われかけた動きを取り戻していくのです。「今日の新しい動き方」を見つけるためのポイントは、驚くほどシンプルです。
- まずはリラックスして力を抜く: 緊張した状態では新しい発見は生まれません。新しい気持ちで体を動かしてみる準備をします。
- 首と肩甲骨を丁寧に: 首を前後左右に動かすときは、第1関節から動かすイメージで、ゆっくりと丁寧に行います。肩回しもしなやかに。
- ラジオ体操を「超スロー」に: いつものパターンを壊す工夫です。4回行う動きを2回に、あるいは2回行うところを「1回と半分の動き」で動いてみます。回数をこなすことよりも、「力を入れるところ」と「抜くところ」を意識し、自分の体が今どう感じているかを「占う」ように観察する。このゆったりとした対話が、体への信頼を取り戻してくれます。

5. 歌が教えてくれる「持っているもの」への視点
茶話会で紹介されたニーナ・シモンの楽曲『Ain’t Got No, I Got Life(なにもない、いのちだけがある)』は、まさにリハビリテーションの精神を象徴する歌でした。曲の前半では、「家もない、服もない、お金もない、愛もない」と、失ったものや欠けているものが切々と歌い上げられます。しかし、そこから劇的な変化が訪れます。「私には髪がある、手がある、指がある、命がある。私には自由がある」と、今この瞬間に自分に備わっているものを一つひとつ肯定していくのです。「何もない」という絶望から、「私にはこれがある」という確信へ。このパラダイムシフトこそが、芳谷先生の説く「希望」の正体です。音楽が持つ元気づける力は、私たちの視点を「失ったもの」から「今持っているもの」へと、力強く引き戻してくれます。
6. 実践的な知恵:水分補給と嚥下予防
豊かな心と前向きな思考を支えるのは、やはり健やかな体という土台です。先生は、明日から実行できる「基礎体力」づくりの習慣を二つ挙げられました。
- 1日1500ml以上の水分摂取 十分な水分は排便をスムーズにするだけでなく、全身のコンディションを整える基盤となります。
- 意識的な舌(ベロ)の運動 嚥下(飲み込み)の力を維持することは、食べる楽しみを守ること。日常的に舌を動かす習慣が、誤嚥の予防に直結します。これらは単なる健康習慣ではなく、私たちが「自分らしく」活動し続けるための、大切な土台作りなのです。
7. おわりに:未来へ向けた「生きる覚悟」
病気や障害と共に生きることは、避けようのない苦労を伴います。しかし、芳谷先生の言葉を借りれば、その「病気の苦労」を、誰もが経験する「人間の苦労」へと変えていく道があるのだと気づかされます。自分の状態を研究し、人との関わりの中で生きる意味を再確認するとき、そこにはただの諦めではない「生きる覚悟」が宿ります。自分らしさとは、かつての自分を完璧に再現することではありません。今の自分にできる工夫を楽しみ、自分で決めた一歩を大切にすること。その過程で出会う新しい自分を、愛おしむことです。今日、あなたが自分らしくあるために、選べる小さな一歩は何ですか? まずは深く息を吐き、肩の力を抜いてみてください。そして、今ここにある「あなたの命」が持っている素晴らしい力を、そっと感じてみませんか。
第二部 おしゃべり茶話会
集合写真の撮影と休憩を終えた後は、2つのグループに分かれて「おしゃべり茶話会」をスタート!自己紹介では最近の出来事などもお話しいただき、和やかな雰囲気でテーマに沿ったトークを楽しみました。
今回のトークテーマはこちら:
・自分らしく元気に過ごす秘訣は?
・感情を上手にコントロールするには?
・私の「推しソング」を教えて!
・自由お悩み相談
「健康のための水分補給が大事だよね」「イライラを抑えるのは難しい…」といった本音トークから、手帳の申請や車椅子の手続きといった実用的な情報交換まで、話題は尽きません。
各班の発表後は、芳谷先生から「嚥下予防には舌の運動がおすすめ」という役立つ総括をいただきました。最後は弘中支部長の挨拶と威勢の良い三本締めで、活気あふれる締めくくりとなりました。
芳谷先生、そして参加者の皆さま、本当にありがとうございました❣
当日は市社協ボランティアセンターの2名の方にもサポートいただき、心より感謝いたします。
また皆さまにお会いできるのを、運営委員一同楽しみにしています!

ミオパチー(筋疾患)の会オリーブ
副代表 八塚 利彦
